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何と言うことは無い一日。何と言うことは無い日常。
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「妖精って、本当にいると思う?」

いつものように、粉引き小屋の傍ら、小川の流れる川辺のお気に入りの場所で、二人は、兄さん譲りの絵本を開いて語り合っていた。


「“十字軍戦争”からこっち、《谷》の西側では殆ど見なくなったって、リンド爺さんが言っていたよ。」

コンスタンティンが言った。その後、ごくんと、クッキーの欠片を飲み込む。

「本当?!」
ミシュカが眼を丸くして言った。緑の瞳と巻き毛で、そうしていると、実際、お人形のようなのだ。

辺りには小さな花々が点々として、魚が跳ねる音がする。二人は、顔を見合わせて、ミツバチの羽音にビクッと身体を震わせるが、直ぐに、遠くに行ったと知って、安心する。

クッキーに入った蜂蜜が目当てなのだろう。

コンスタンティンは忌々しげに亜麻色の頭を振った。少し汗の匂いがする。

「リンド爺さんって、妖精の事なら、何でも聞いてくれ、って言う位、詳しいんだって。信じる?!」
「信じる。」

エプロンドレスが草の汁まみれになるのも厭わず、ミシュカは身を乗り出して来た。ルバーブのジャムの匂いがした。

「妖精って、どんなの?!どんな形しているの?!」

「ちっちゃいんだって。羽根が生えていて。」

「翅?!」

小川のせせらぎにも負けずに、きらきら光る瞳が覗き込む。

「それとね。」
コンスタンティンが意味ありげに声をひそめた。
「うん。」
「ミルクを甘くするんだって。」


「ミルク?!」

クッキーとマフィンの入ったバスケットの中に、ミシュカは眼を遣った。水筒は、午後の陽射しに軽く汗をかいている。

「本当?!」
「本当だってさ。知らない内に家に入って来て、魔法の杖を使うんだ。」
「タレット小母さんの所にも、来てくれないかな。」
「どうして?!」

話し合う二人の上を木漏れ日が波の様にさざめき、雲が流れて行く。
「牝牛が二匹しかいないから、無理なのかな。」

眉根をよせたまま、カップを出して、水筒からミルクを注ぐ。


二人で一緒に、一口飲んで。


「あれ?!」


同時に声を上げた。特にミシュカは嬉しそうだ。

今夜、二人の子供達それぞれの保護者が。
二人にどんな説明をしたものか、鐘撞き堂の上にかかる、宵の明星なら、知っているかも知れない。


          * The End *

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