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何と言うことは無い一日。何と言うことは無い日常。
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- 荒れ狂う夏は過ぎた。怒涛のように。津波のように。
やがて、おそるおそるといった風に、秋はやって来る。
すっかり、風が心地良くなった日。

頬にも、額にも、洒落で首に巻いたマフラーにも、涼しい風が吹きぬける中を、僕は、一人、駅のホームで列車を待っていた。

急ぐ必要も無い、特に宛ての無い旅とは言え、こんな時は、妙に手持ち無沙汰だ。
駅のホームで、イヤホンで音楽を聴くのは、それは退屈は紛れるのかも知れないが、肝心の構内アナウンスが困る。
時々、とんでもない、重要な放送を聞き逃したりなどしてしまうのだ。実際、困る。

金網の向こうに、モンシロチョウが咲き残りの夾竹桃を飛び越すのを見るともなしに見ていると、

『4番ホーム、・・・』

その時、アナウンスが聞こえた。4番ホーム。僕のいる場所だ。
ほーら、見ろ。しかし、一人旅に、ウォークマンやIpodが使えないとなると、どういう時に、使えば良いんだ?こういう物は?

じっさい、退屈を紛らせる方法の一つだ。頭の中であれ、一つ問題を出して、理屈をこねるのは。

いや、そんなことより。

この時間、このホームに停まる列車は無いと思っていたが、快速列車かな?連休にあわせた臨時急行とか?

初秋は週末の午後。こんな時間に田舎へ向かう列車は、さて、どんな人々で賑わっているのだろうか?それとも、疲れ切った家族連れが、子供たちと一緒に轟沈しているのが見られるのだろうか?

やがて、やって来たシルヴァー・メタルの長い列車は、予想を半分、予測を少しだけ上回る混雑振りだった。

ちょうど、出入り口の長い窓の向こうに、ユリの花束を抱えた、三つ編みの少女が見えた。
二人の視線が、ほんの刹那に、かち合った。
列車が通り過ぎる一瞬で、僕は、確信した。

彼女も、僕の事を、「わかった」と。

間違いなく、二つ年上の従姉だった。

遠ざかる、線路と車体の響き、いや、今となっては、それも聞こえなくなった。

列車が過ぎ去ったホームには、秋風と、売店と自動販売機。くたびれきった人達。そして。

僕は、其処から歩き出した。

来た道を、もう一度、歩いて戻る事にしたのだ。

従姉が亡くなったのは、去年の暮れ。苦しまずに済んだのが幸いだったと、思いがけず、逆縁に遭った伯母が、鼻をかむ様子が、眼の奥に残っている。

従姉が、何の為に、僕に姿を見せたのか、あの列車は何だったのか、それは、僕には分からない。いや。もしかしたら、僕にこそ、その理由は分かっているのかも知れない。
未だ若い、やる事もやりたい事も沢山あったろうに、それでも、記憶の中の彼女は、白い百合を抱いて僕を見つめている。

だから、僕は歩き出す。

今度は、自分の人生に逆らわずに生きる為に。
自分の未来と、現在に、背を向けずに、生きる為に。

突風が吹いた。
僕は、思わず振り向いた。

誰かが、線路の向こうで、帽子を振って見せてくれたような、気がしたのだ。

勿論、気のせいだが。


                           * The End *


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