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何と言うことは無い一日。何と言うことは無い日常。
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「もし、今この瞬間、魔法が使えたなら、君なら、何をする?何をしたい?」

良く晴れた空の下で。
緑一色に点々と花弁の色が散る、柔らかな草の原は、子供達のお気に入り。思い思いに腹ばいになって見たり。胡坐をかいて見たり。
女の子は少しお澄ましして、スカートの裾を見事広げて、もう一つの小さなお花畑が、そこに出現していた。

「例えば、魔法使い見たく、妖精見たくさ。」
この魅力的な提案を出したのは、マーシャの持って来たジンジャークッキーを一番最初につまんだロドニーだった。

飛び付いたのは、アンジェリカが最初だった。

「空を飛ぶ!」

次に、ジョナサン。

「何でも作れる、魔法の大工道具!」

「魔法の大工道具を、魔法で造るのかよ?」

「悪いか?!」

テッドの突込みにも、手先が器用で、自分で模型の船まで作るジョナサンの鼻息は荒い。

「そう言う、テッドは?」

議長のロドニーの指名が当然の如くに来る。

「姿を消して、学校や、皆の家に行って見たいな。」

「えー、悪趣味。」

「アンジェリカ。却下。マーシャはまだ、聞いていないよ。」

「うーんとね。」

お気に入りの縫いぐるみを抱き締めたまま、大人しい栗色の髪の少女が首をひねる。その瞳は、今日も夢見がちだ。
仲間たちが、待つ中を、

「あたし、ペガサスに乗って見たいな。」
「成る程、おい、言いだしっぺ。」

テッドが議長の発言を促した。

「僕は、サンタクロースになって見たい。以上。」

ロドニーは、自分の発言の効果を確かめるように、前髪をかき上げるポーズを取った。

一分後、彼は、自分の発言の効果と影響そのものを、思い知る事になる。

「え。何て言ったの?アンジェリカ。・・・お皿を出して頂戴。」

その晩のアンジェリカの家は、夕食の支度をしながら、アンジェリカが彼女の母親に、まとわり付く様子が見られた。

「ロドニーが、ラップランドの言葉が出来るようになると思う?ママ?」

「何でも、努力次第よ。ママの知り合いに、ラテン語がぺらぺら話せる人がいるわ。勿論、ローマの貴族なんてものじゃないのは確かよ。」

「へえ。ねえ。ママなら、魔法が使えたなら、何をしたい?」

「さあね。ローストビーフを、今の半分の時間で作れるようになりたい、かしらね。もう直ぐ、お父様が帰って来ますからね。二階の戸締りを見てきて頂戴。アンジェリカ」

「それだけ?大人ってつまんない。」

殊更に、眼を丸くして言いながら、大人しく、階段を昇る娘の後を、愛しげに見守りながら、アンジェリカの母親は、それこそ、魔法のように、ひっそりと呟くのだった。

「もしも、魔法が使えたら、“人間になりたい”。と、願ったでしょうね。・・・でも、もう、叶ったわ。」

庭先が明るい。車のヘッドライトだ。
アンジェリカの父親が帰って来たらしい。

彼女は、エプロンで手を一拭きすると、玄関まで、迎えに出た。


            * The End *


 

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