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何と言うことは無い一日。何と言うことは無い日常。
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 睡蓮の咲く、池の端を、荷物を抱えて、さくさくと歩く。
 今日も暑い。いや、この時間ならそうではない。暑くなりそうなのだ。
 汗の雫を、手縫いのハンカチで拭う。
 妹の笑顔が、不思議と涼しく脳裏を通り過ぎて行く。
 向こうから、誰かが来る。
 反射的に、私は頭を下げる。
 旅装束の、埃まみれの靴が、否応も無く眼に入る。
 はあ。
 相手の付いた息が、蝉の聲に、次の瞬間、消された。
 二三歩歩いて、不意に振り返った。背中で、商売物の靴直しの道具が、からりと、揺れる。
 旅人の背中が、特に急ぐでもなく、木漏れ日の向こうに消えて行くのが見える。
 行商に向かう私とすれ違ったのなら、この方角は、紛れもなく、私の住む村の方角。
 詮索がましいことは好きではないが、村に住む誰かに用事で遣って来たのだろうか。
 あと小一時間で、村の出入り口だと、励ましたくなったが、もう、時機を逃したろう。踵を返した。

 夕方まで、隣村で、木靴を相手に、格闘しながら、あの道を見ていた。
 誰も通らない。また、誰かが私に声を掛けたりもしない。
 さて。私は立ち上がった。
 沈み行く太陽と競争で、私の村に、家族の待つ家に、帰り着かなくてはならない。
 疲れ切った身体にも関わらず、私の足は軽い。
 村の誰かのお客の事が、こんなにも気に掛かる。
 一陣の風を、額に浴びたように、気持ちは爽やかだった。
 あの旅人は、外の世界の、どんな物語を、届けに来てくれたのだろうか?
 帰り着いた後に、きっと、誰か親しい人間から聞けるだろう、話が楽しみだった。
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