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とある夜。
先輩と後輩。二人だけの、コーヒーと煙草と灰皿と、真剣な顔が二つ。
静かな郊外のアパートの2階の一室にて。
「先輩なら、どうします?」
「お前ね。。。」
「はい。」
「いきなり、難しい事を訊くんじゃないよ。」
「難しいですか?」
「だから、情けない顔をするなと。うーむ。。。。」
「難しいですよね。」
「解っているんじゃねえか。」
「ラーメン屋で、恋人と別れ話って、そんなにおかしいですかぁ?」
「。。。。。おかしいよ。すっげ、おかしいよ。」
「じゃ、何処が良いんですか?
行き付けの喫茶店って、どうも、その話がやり辛いんですよ。マスターと、二人とも、すっかり、顔見知りになってしまってるし。」
「おお、あの、ブルマンとオムライスの美味しい店だな。よせ。あの銀髪のマスターに、どんな顔をして、注文して良いか、俺なら、わからん。」
「ファミレスも何か、変だし。」
「いや、変なのは、その事じゃなく。。。。。。ま、いいや。もう、決めたんだな?彼女と別れると。」
「やっぱり、身分違いなんですよ。最近じゃ、もう、会話の端っこに、人間の名前が出て来るだけでもう、心の臓が跳ね上がりそうで。」
「普通、人間は、名前を持っているがな。解った。高級レストランとか。」
「フレンチとか。イタ飯とか。。。。焼肉屋でカルビを焼きながらって云うのも、変か?」
「(突っ込み無しで)寿司屋とか。割烹とか。ネットで調べて行くのも、一つの手だな。」
「居酒屋は駄目っすね。出来たら、しらふで切り出したいんです。」
「まあ、その点は、お前の自由だ。どうだ?タウンページに、良い店が載っていそうか?」
「別れ話をする、良い店って。。。。?!」
「お前がやるって云ったんだろうが?男に二言は無いのじゃないのか?」
「。。。。。。」
「どうした?返事が聞こえんぞ。」
「何処に決めようと、二度と、行けませんね。」
「ふーん。」
「いや、行く気になりませんよ。絶対。」
「だったら?お前が決めたんだろうって。」
「・・・・はい・・・・・。」
後輩は、この後、思い切り小さな声で、女性の名前らしきものを虚空に向かって呟く。それを知ってか知らずか。
先輩より、一言。
「何か、喰うか?」
=数日後=
何気ない風を装って。
先輩より、声を掛けてみる。
「どうだった?高級料理店での別れ話は?」
「先輩。」
「何だ。改まって。色々世話になりましたって言うお礼のつもりか?よせ。水臭い。」
「いや、その、実は、あの。それが、つまり。」
「ああん?」
「まだ、切り出していないんです。」
「何だとお?何が有った?」
「その、つまり、同じ会社に俺と彼女が勤めているのは、ご存知ですよね?」
「おお。で?」
「あああ。するめを丸かじりで。先輩は男らしいなあ。いや、そんな事より。
先週末、仕事を会社からアパートに持って帰ったら、彼女がですね。」
「ふんふん。」
「インスタント・ラーメンを作ってくれまして。」
「インスタント・ラーメン。」
「ええ。袋入りの。しかも、ライス付きで。」
「ラーメン・ライスだな。美味かったか?」
「はい。それは、もう。野菜たっぷりで。茹で卵も載ってですね。二人で食べながら、仕事の話なぞ。」
「ほうほう。楽しかったろうな、それは。」
「だから、あの。すいません。先輩。別れ話はぁ、この次と言う事で。。。」
「勝手にしろい。」
* The End *
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