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何と言うことは無い一日。何と言うことは無い日常。
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夜。

今夜と同じ位、星すら凍て付きそうな夜。

牛が一頭、草原で草を食んでいました。

今位の季節ですから、枯れ草ばかりですが、牛は文句も言わずに食べていました。

ゆっくり、ゆっくり、食べては噛み、食べてはまた反芻し、を繰り返していると、

星の瞬く暗闇から、話し掛けて来た者がいます。

「ねえ、牛くん。」

牛は、返事をしません、それは、勿論です。

「ねえ、牛くん。」

なのに、その声は、尚も食べ続ける牛に話し掛けているのです。何故なのでしょうか。

「食事中に、すまないね。」

牛は食べ続けています。

「ねえ、牛くん。君は、牛以外の者に生まれたかったと思うことなど、あるのだろうか。」

牛は噛み続け、反芻を繰り返します。時々、虫を追い払う為に、尻尾を振るのです。

「有るのかも知れない。無いのかも知れない。僕には、解らないよ。」

冴え冴えとした夜の空気の中で、染み通るように、声は囁くのです。

「うん。そうだね。僕だって、後悔はしていない。だって、僕は・・・・だもの。」

後の声は、近くを通る汽車の、線路の響きにかき消されましたがしかし。牛のいる所まで届かぬほどの小声では、有りませんでした。

やがて。満腹するほど、ようやっと食べ終わった牛は、あっさりと踵を返し、ゆっくりと、草原を登って行きます。
自分達の、牛小屋へと。
小屋には、此処からでも見える、小さなオレンジの灯りが灯っています。其処を目指して、緩やかな斜面を登って行きます。

ゆっくり、ゆっくり。歩を進めるのです。

時々、小さな羽虫が寄って来るので、房飾りの付いた、尻尾を振るのです。

後には、倒れ伏した枯れ草の上を、冷たい冬の夜の風が吹くばかり。

凍て付きそうな、星の光です。

もしかして、本当に、星の光さえ、凍て付いたかも知れません。

だから、風に吹かれて、星の光は、ちりちりと、あるいは、言葉の形で、鳴るのです。


『自分が、自分であることを、僕は、後悔は、していないよ。だって、僕は、夜空の星なのだもの。』


                                      * The End *


干支年に因む話を書く積りでした・・・・・(T_T)
綺麗に轟沈(爆


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21:04 2008/12/07

本当は。

昔々。

本当は、夜空の星は、一個だけだったのです。

何故かって?

その方が、公平だからじゃないですか。

お星様は一人。

お月様は一人。

そして、お日様も、当然、一人。

だから、お星様は、ただ、『お星様』とだけ呼ばれていれば良くって、それ以外の名前なんて、必要じゃないし、そもそも、思いも付きませんでした。

きらきらきらきら、輝く星は我のみなり。だから、名前も、『お星様』。

お日様が一日の労働疲れで、あくび混じりに地平線の下へと引っ込んだ後は、一ヶ月の内、二十九日が、お星様の独壇場です。

お月様は、大抵、一日は休みを取りますので。

そう言えば、お月様って、休みの日は、何をしているのでしょうね?
気になりませんか?
光り輝くお月様の、知られざる日常生活、です。

思うに、あの真っ白くて青くて、それでいて、時折、黄金色に光り輝く、あの表面は、あれは、相当に、凝っています。
プロのインテリア・デザイナーでも、あの色を追及して上手く表現するまで、何年かかる事か。きっと、メンテナンスには、とても気を遣っていると、そう、思うのです。

毎日が忙しく、唯一の相棒にして兄弟とも言えるお月様の満ち欠けの巡り行く様まで、それは面白く興味深く、お月様のくるくると、ダンスのピルエットを思わせる様子は、はたで見ていても飽きません。

だから。自分が、お星様で、お星様なのは、当たり前で、もう一人、お星様が、いたらなあ、何て、考えもしなかったのです。

お日様に、こう、言われるまでは。

「時々は、君と話したいな。どうだろう?僕が地平線から昇る時、とか、あるいは、地平線に没する間、とか、君が空にいて、僕と軽い、同じ地上を照らす天体としてのディスカッションを楽しむ、と言うのは。」

憧れのお日様からのお申し出です。頬を真っ赤にして、お星様は肯きました。
でも。心配性のお月様からは、こんな意見も。

「君は、一晩中、夜空で光り輝いて、くたくたの筈だよ。夜明けと夕暮の部は、それぞれ、別な人に頼みたまえ。」

別な人。そんな人が、何処にいるのでしょうか?

お星様は困りました。困った末に、自分達を創った、大いなる理、宇宙の真理に、願いをかけたのです。

「どうか。どうか、もう一人、もう一人だけ、夜空に星を生み出して下さい。御願いします。」

ある日、お日様が、何と無く名残惜しげに沈んで行った後、こちらも、気落ちした様子で、お星様が菫色の夜空に、光りだした時です。

「君は、誰ぁれ?」

小さな声に振り向くと、すると、どうでしょう?自分と同じような姿形をした光り輝く天体が、程近い所に、かかっているでは有りませんか。

「僕?僕は、お星様。」
慌てて、自己紹介をすると、相手は、
「僕も、お星様だよ。」
と、真面目な顔で、そう言うでは有りませんか。

これで、お星様が、二人になったのです。

夜空の輝きまでが、倍になったように思えました。直ぐ近くでは、お月様が、にこにこと楽しげに、三日月の眼を細めて、二人を見守っています。

元からいたお星様は夢中になりました。僅かに色が違うだけで、二人は、まるで、瓜二つです。
髪の長さや、衣装の細かい所までが、非常に良く似ていて、これが、双子と言うものでしょうか。

「鏡に映したようだ。」
「本当だ。」
二人は口々にそう言い合いました。

夜空に輝きを放ってい続けなければいけない、お星様の使命を忘れ、二人はそれこそ、何もかも忘れて、お互いの比べっこをしたのです。

「同じ動作をして見よう。」
「うん。して見よう。」

二人は向かい合って、鏡に映した時の真似をし始めました。
一人が右手を上げたなら、もう一人は、左手を上げるのです。

手を上げて。足を上げて。くるりと回って。
いないいない、ばあをして見せて。
走る早さも同じ。ちょっと、音楽が欲しい時に、唇でかき鳴らす口笛も、同じ曲。

「僕達、双子だ。」
「本当だ。双子の兄弟だ。」

「それ、ご挨拶。ご挨拶。」
ごちっ。

向かい合わせで、頭を下げた時に、二人の額と額がぶつかり合ってしまいました。

「痛いっっ。」

余りの痛みに、二人は悲鳴を上げました。
その時、二人の額から、一斉に、火花が飛び散ったのです。それも、大量に。

派手な音とともに、夜空一杯。宇宙全体に飛び散った、火花は、やがて、幾百、幾千の、星になりました。

お月様も、お日様も、呆気に取られました。

幾千もの星が揃えば、当然、住む所だって広がります。
住む所には、水が要ります。だから、河だって、作りました。
天の川が、それです。

だから。お星様は、今では、一人ひとり、皆、名前が違うのです。

元からいたお星様は、自分だけがお星様ではなくなりましたが、今ではすっかり、大勢の暮らしに慣れて、毎日を楽しく元気に、過ごしています。

それは、時折は喧嘩もしますが、一人に戻りたいとは、どうも、思ってはいないようです。

貴方の好きな星は、何と言う名前なのか、ご存知でしょうか。

もしかしたら。

貴方だけにそっと、今夜、教えて貰えるかも、知れません。

星に願いを、かけて見ませんか・・・・?

お休みなさいの、その前に。


                  * The End *

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